時間領域多重一方向量子計算

誤り訂正可能な汎用型量子コンピューターを実現するには、いかなる量子操作も構成可能な基本的な操作を実現する必要があります。さらに、その基本操作は誤り訂正が可能で、かつ大規模化が容易である必要があります。量子コンピューターの実現に用いられる主流なアプローチとして、量子回路モデルという手法があります。これは、量子状態に直接量子ゲートをかけることで計算を行う手法です。しかし、この手法では、基本操作の大規模化が非常に困難だとされてきました。

そこで、古澤研究室では一方向量子計算 [1, 2]と呼ばれる手法に着目しています。この手法では、クラスター状態と呼ばれる大規模エンタングルメント状態を予め用意しておきます。その状態を構成する量子ビットに対して、適切な測定を行うことで量子計算が行えます。この手法の利点は、大規模なクラスター状態さえ作ることができれば、実際の物理的な回路を変えずに測定の仕方を変えれば様々な量子計算を実行できるという点にあります。これは、クラスター状態があらゆる量子計算のパターンの中から、測定による波束の収縮によって所望のパターンを一つ選んだと考えることができます。大規模なクラスターを実現するためには、我々は量子情報を時間波束にエンコードする「時間領域多重」[3]と呼ばれる手法を開発しました。その結果、1入力―1出力を実現できる大規模な1次元クラスター状態[4, 5]をはじめ、多入出力の計算に必要な2次元クラスター状態 [6]を世界で初めて生成することに成功しています。更に、プログラマブルな測定により様々な操作を施し、クラスター状態に非古典的な状態を入力することで、光量子コンピューターの実現を目指しています。に向けた新しい方向の研究を進めています。

図1:時間領域多重の手法を用いた大規模二次元クラスター状態 [6]。
図2:実験の様子。実験を成功させるためには多数の鏡を精密に調整することが欠かせない。