3次位相ゲート

量子コンピュータでは、ある種の計算を従来よりも圧倒的に速くできると考えられていますが、様々なアルゴリズムを動かすためには、そもそも様々な基本的な計算を実際にできなければなりません。

古典コンピュータがNANDゲートの組み合わせのみで構成できることはよく知られていますが、同様に量子コンピュータにおいても、これを構成するゲート(量子ゲート)の最小単位が存在します。特に、連続量の手法を用いた光量子情報処理においては、ある5つの量子ゲートの組み合わせによって、任意の量子計算を構成することが可能であることがわかっています [1]。古澤研究室では、これらの量子ゲートのうち4つまでが実験的に実現されており [2]、最後の1つの量子ゲートの実現が、我々のグループの目的です。

目的の量子ゲートは 「3 次位相ゲート」と呼ばれています。これは3次の非線形光学効果に対応する操作で、量子レベルの極微弱光に対して実現することは容易ではありません。これを、誤り訂正が可能な形で実現できるのが、量子テレポーテーションを応用した方法です[3]。量子テレポーテーションは、量子的にもつれた補助状態を利用し、入力した状態と同じ状態を出力として取り出す操作です。この応用として、特殊な補助状態を用意し、量子テレポーテーションの操作を少し変形してやることで、入力状態に3次位相ゲートをかけた後の状態を出力として取り出すことができます。つまり、難しいゲートを特殊な補助状態の準備と、これまでの技術の応用という形に分割することで、間接的に実現できます。

古澤研究室では、誤り耐性のある3次位相ゲートを実現するため、パラツキー大学(チェコ)のPetr Marek准教授, Radim Filip教授らと共同研究し、最小限のリソースで済む構成方法を提案しました [4]。現在、この方法に基づいて、実際に実験系を構築しており、3次位相ゲートに必要な特殊な量子状態の生成や、量子テレポーテーションの技術を応用した操作の検証を行っています。

図1:私達の研究室で考案された3次位相ゲートの実装方法 [3]。入力状態に対して間接的に3次位相ゲートを施すことができる。