誤り耐性量子コンピュータの実現に向けた理論研究

量子コンピューターでは量子情報を量子ビットに符号化して情報処理を行います。しかし量子状態は環境との相互作用による外乱に脆く、量子ビットを誤りなく制御することは困難です。そこで、多数の量子ビットを冗長化した大規模な量子もつれ状態により量子誤り訂正を行う必要があります。そして量子ビットに発生するエラーをしきい値と呼ばれる値以下にすると、量子誤り訂正により、量子計算に発生するエラーをいくらでも小さくできることが理論的に示されています [1]

光量子コンピューターでは、時間領域多重化による大規模量子エンタングルメント状態の生成が可能となっており [2]、量子誤り訂正に向けた大規模量子もつれ状態が比較的簡易に実現することが期待されています。一方で、しきい値を達成できる光量子ビットの制御は難しく、誤り耐性のある量子コンピューター実現に向けた課題となっています。我々はその実現に向け、具体的に次の3つのテーマに取り組んでいます。

(1)量子誤り訂正に向けたしきい値の改善:しきい値は従来370 兆回の演算当り1 回 以下のエラーしか許されないという値から、1万回の演算当り1 回以下のエラーまで許容する値に改善されてきました [3]。現在我々は100回の演算当り1回以下のエラーというレベルまで改善するプロトコルの開発を目指しており、これにより制御に必要な実験的要求を格段に緩和されることが期待できます。

(2)光量子ビットの生成手法の開発:誤り訂正符号の生成には大きな非線形性が必要ですが、実際の実験系において十分な非線形性を得ることは困難です。我々は、超伝導光子数識別器を用いることで大きな非線形性を得る技術 [4]に着目し、光量子ビットの実現に向けた応用を目指しています。そして数値シミュレーションや原理実証を通して、しきい値を達成する高精度な光量子ビットの安定した生成手法を開発していきます。

(3)高精度の量子計算システム構築:しきい値を達成する光量子ビットが実現されても、実用的な規模の量子計算にスケールさせた際に、実験的に量子誤り訂正ができるかどうか明らかではありません。これは実際の実験では、実験系の至る所で発生する様々な種類のノイズを評価し制御する手法が確立されていないからです。そこで、時間領域多重化による大規模量子エンタングルメント状態と光量子ビットを組み合わせたシステム全体に対する光量子ビットや量子誤り訂正の精度評価手法を開発し、その制御に活用します。これにより高精度の大規模量子計算を安定して供給することが可能な量子計算システム基盤を構築します。

図1:理論グループのメンバー。